Jesus Malverde / ヘスス・マルベルデ
「麻薬マフィアの聖人」として知られている。これを歪んだ信仰だとする説や、ヘスス・マルベルデは実在しなかったとする説があり、この「気前のいい盗賊」について、両極端な議論が繰り広げられてきた。
ヘスス・マルベルデの生涯の詳細は、はっきりしていない。研究家の中には、ヘスス・マルベルデという人物は存在していなかったと言い切る者もいる。
伝説によると、ヘスス・マルベルデはシナロア 版ロビン・フッドで、「金持ちから盗み、貧者に施した」人物だ。シナロアの富裕層に対する度重なる強盗によって、当時のフランシスコ・カニェード知事は、ヘスス・マルベルデの首に賞金を懸けた。
ヘスス・マルベルデを引き渡したのはその代父 で、それは、マルベルデ本人の希望によるものだった。なぜなら、当時マルベルデは、銃弾で負傷し、壊疽(えそ)を起こしていたからである。マルベルデは、懸 賞金を慈善活動に使うことを代父に約束させた。しかし、その約束は果たされず、代父も懸賞金も行方不明になった。
政令によって、マルベルデを埋葬することは禁じられた。マルベルデは綱で木からつるされ、綱が切れて遺体が地面に落ちるまで、放置された。
シナロア州クリアカンの住民たちは、マルベル デの遺体を石で覆っていった。各人が一回にひとつずつ石を持って行き、それはやがて、大きな丘となった。遺体の埋葬に感謝して、マルベルデが奇跡を与えて くれるように期待してのことだった。
こうして、ヘスス・マルベルデへの信仰が生まれ、そして、「麻薬マフィアの聖人」として、メキシコ文化の中に浸透していった。これを歪んだ信仰だと言う人々もあるが、麻薬マフィアの中に深く根を下ろ していることも事実である。
確 かなことは、ラファエル・カロ・キンテーロやアマード・カリージョ・フエンテス(訳注1)のような麻薬マフィアの大物たちも、マルベルデの礼拝堂を訪れ、 「麻薬マフィアの聖人」の奇跡に感謝したということだ。付近 では、礼拝堂を訪れて、有名なナルコ・ミュージック(訳注2)を演奏するバンドを見かけることも珍しくな い。バンドは、麻薬マフィアの依頼で礼拝堂を訪れ、米国へ無事麻薬が到着したことをマルベルデに感謝して、演奏するということである。
クリアカンのマルベルデ礼拝堂訪問は、退廃的 な魅力を求める旅行者には欠かせない場所だ。礼拝堂は、建築物としては特に目を引くものはないが、礼拝堂の内部やヘスス・マルベルデ信仰そのものが、概して、ある種の低俗な面白みを持っている。
(訳注1) ラ ファエル・カロ・キンテーロは、麻薬組織グアダラハラ・カルテルの創設者。アマード・カリージョ・フエンテスは、麻薬組織フアレス・カルテルのリーダーで 1997年死亡。
(訳注2) ナ ルコ・ミュージックは、メキシコ北部の新しい民族音楽で、麻薬密売(ナルコ)に関する人物や出来事を歌っている。
e-MEXICOより抜粋
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